■「心不全(しんふぜん)パンデミック」について
「心不全パンデミック」という言葉が最近よく使われます。パンデミックとは「大流行」という意味ですが、心不全は感染する病気ではありません。大流行と思われるくらい増えている、ということです。心不全の患者数は毎年約1万人ずつ増加しており、2030年には130万人になると推計され、高齢になるほど増えることが知られています。
心不全は、高血圧、心筋梗塞(しんきんこうそく)、心筋症、弁膜症(べんまくしょう)、先天性心疾患などにより、「心臓の働きが低下し、負担がかかった状態」で、慢性の経過をたどり徐々に悪くなっていく病気です。先述の病気だけでなく、老化で心臓の筋肉の弾力性がなくなり、動脈硬化で心筋梗塞や弁膜症も起こりやすくなるため、高齢者に発症しやすいと言われています。心不全になると、息切れ、動悸(どうき)、足のむくみ、だるさ、疲れやすさが見られます。1週間で2kg以上の体重増加も目安になります。こういった症状があれば、早めに相談することが大切です。
診断には、聴診、胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査、血液検査を行います。特に、心エコー検査や血液検査の「ナトリウム利尿ペプチド」(BNPまたはNT-proBNP)は有用です。
心不全の治療は、原因となっている病気の治療のほか、心臓の負担を軽減させる薬を使います。いったん良くなっても、急激な悪化を引き起こす誘因(内服薬の中断、塩分の多い食事、感染症、過労など)で悪化し、入退院を繰り返してしまいます。普段の生活の中で、塩分や水分の摂(と)りすぎに注意し、禁煙や飲酒の制限、適度な運動などに留意しましょう。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種など、感染予防も大切です。病院でもらった薬は、自分の判断で勝手に中断せず、必ず主治医に相談しましょう。
最後に、高血圧は、最も頻度が高い心不全の基礎疾患であり、注意すべき増悪因子です。診察室血圧130/80mmHg未満が降圧目標レベルです。厳格な血圧コントロールで将来の心不全を予防していきましょう。
文責:平沢医師