■ワクチンがあるにもかかわらず注意が必要な感染症について
乳幼児期から接種できるワクチンが増えたことによって、多くの子どもが感染症から守られるようになりました。
私が小児科医になった30年以上前は、小児科病棟ではいろいろな感染症の入院があって、いっときに10人以上の患者の主治医として治療をしたものでした。
やがて、肺炎球菌やHib(ヒブ)、ロタのワクチンが定期接種になってから、それらによって引き起こされる感染症が激減したため、最近の小児科病棟は様変わりしました。感染症の中には命に関わるものも多くあったので、接種できるワクチンの種類が増えたことは、子どもやその家族や社会にとって、多大なる恩恵といえるでしょう。
残念ながら、ワクチンがあるにもかかわらず、子どもたちの命を脅(おびや)かす感染症はまだあります。その一つは百日咳(ひゃくにちぜき)です。昔は三種混合、最近までは四種混合、今は五種混合ワクチンの中に百日咳が含まれており、ほとんどの乳児が生後2か月から接種し、百日咳から守られています。
百日咳は現在も日常的に流行し、感染初期なら抗生物質で治ります。ただ、家族にワクチン接種前の子どもがいれば感染させてしまい、新生児期の百日咳は、突然の呼吸停止を引き起こすことがあります。最近も日本国内で生後2か月のお子さんの死亡が報告されました。そのため乳児期の呼吸器感染症を診るとき、家族の呼吸器症状の有無に注意しなければいけません。
百日咳以外で注意すべき感染症は麻疹(はしか)です。ほとんど毎年麻疹患者が報告されています。多くの子どもたちは1歳になると、麻疹のワクチンを受けていますが、ワクチン未接種の子どもが麻疹患者に接触する可能性がある以上は、まだまだ注意する必要があるでしょう。
多分私たち小児科医がワクチンの恩恵を最も直接感じているのだと思います。今まで私は何万人もの子どもたちにワクチンを打ってきました。泣いている子どもたちを前に、心を鬼にしてワクチンを打ち続ける理由がここにあります。
文責:高橋医師